大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所函館支部 昭和36年(ネ)37号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人勝訴の部分を除きその余の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、控訴代理人において当審における控訴本人尋問の結果を援用すると述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

当裁判所は更に審究の結果、結局原審と同一の判断に到達し、(一)控訴人は真実夫婦としての共同生活を営む意思で被控訴人との婚姻を約し、被控訴人も亦将来控訴人と正式の婚姻をなしうるものと信じたればこそ肉体関係すら許容し、ひたすら婚姻の実現を待望していたもので、両者間には被控訴人主張のとおり婚姻予約が成立したものというべきである。(二)もつとも、控訴人、被控訴人とも両者の関係を親兄弟に打明け、世上の慣習に従い結納を取り交わしたことも、被控訴人主張のように同棲同様の生活を続けていたことも認められないが、被控訴人は控訴人の求婚に応じて交際を始め長期間にわたり肉体関係を継続した点において既に当事者双方の婚姻しようとする意思が明確に窺えるのであるから、婚姻予約の成立にはなんらの妨げがなく、控訴人主張のように両者の関係を若気の至りからでた単なる野合ないし私通の関係にすぎないとは解し難い。(三)控訴人は被控訴人との間に一切の関係を解消する旨の合意が成立したと主張するけれども、控訴人の婚約解消申入に対しては被控訴人の承諾がなく、控訴人から被控訴人に交付された金一万五千円は妊娠中絶費用でいわゆる手切金とは認め難く、右主張は理由がなく、控訴人は前記婚姻予約をなんら正当の理由なくして破棄したものであるからその責を負い、これによつて被控訴人に与えた精神上の苦痛を慰籍するに足る金員を支払うべき義務があり、その額は金一〇万円が相当である。と判断した。控訴人が新に当審で援用した控訴本人尋問の結果中この認定に牴触する部分は措信し難い。それゆえ、原判決の理由中控訴人に対する請求についての説示部分をここに引用する。

よつて、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(昭和三七年七月一〇日札幌高等裁判所函館支部)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例